国立がん研究センター中央病院 看護部長 那須和子

国立がん研究センター中央病院で障害者雇用を始める際、私たち看護部門に戸惑いがなかったわけではありません。障害のあるスタッフを病院に受け入れた経験がなく、未知の世界だったからです。障害者雇用を進めなければいけないことは理解していましたが、どのような仕事がどこまでできるのか、分かりませんでした。

平成23年4月に知的に障害のある5名の方が雇用され、郵便の仕分けなどの事務部門の仕事を中心に業務が開始されました。看護部門からは現場の意見を踏まえて、看護業務の片手間に行っていた点滴針の固定用テープカットの仕事をしてもらうことになりました。がんの専門病院なので点滴の量も半端ではなく、この作業から解放させてもらえるだけでも有難かったのです。実際に仕事をしてもらって、彼らがひたむきに仕事に取り組む姿に加え、衛生面への配慮や仕事の出来栄えに感嘆させられました。このことで、彼らに仕事を委ねることへの抵抗感はなくなり、病棟での上掛け布団の包布や薬剤カートの運搬など、医療現場の業務は着実に増えていきました。内視鏡の洗浄のような仕事も任され、仕事の丁寧さが担当医師からも高く評価されるなど、まさに医療の第一線で医療チームの一員として活躍している印象です。

看護部長としては、足下の看護部の事務作業にも随分と協力してもらっています。看護師の募集要項の依頼があった時など、事務職員が配置されていない当院では、看護部の幹部職員が袋詰めや郵送をしていましたが、今は障害のあるスタッフにお願いしています。アンケートの集計、看護部から病棟への書類の配送、不要な書類のシュレッダー作業もしてもらっています。これらはどの病院の看護部にもある仕事でしょうから、まずは看護部の事務作業から始めて病棟業務に拡げていくのも良いかと思います。

当院の看護スタッフは、がんの先進的な治療に携わることに誇りを持って働いていますが、そのような職場であればこそ、なおさら人の気持ちが分かるような人でいて欲しいと願っています。知的障害のあるスタッフと日常的に話を交わす機会があることは、有機的な人間関係を作る意味でも良い影響を与えてくれていると思います。これも障害者雇用の思いがけないプレゼントなのかと感じています。

国立がん研究センター中央病院看護部長 那須和子